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第491号 1999(H11).01発行

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政策展開に即した研究開発

チッソ旭肥料株式会社
社長 太田 孝

チッソ旭肥料株式会社
社長 太田 孝

 明けましておめでとうございます。読者の皆様方におかれましては,本年が実り多い年でありますよう心からお祈り申し上げます。

 昨年をふり返りますと,経済面では戦後初めて2年連続のマイナス成長となり,出口の見えない不況に呻吟しました。銀行の貸し渋り姿勢が強まり信用収縮が起り倒産企業も多発しました。金融再生のため公的資金の投入を行う金融早期健全化法,金融再生関連法等が施行され金融システム安定化の枠組みが一応出来上りましたが金融機関の不良債権処理には相当時間がかかるでしょう。政府は昨年末に追加緊急経済対策を講じましたが,本年はその景気浮揚効果に期待したいものです。社会面では無差別殺人行為の毒物混入事件が発生し世間を騒がせました。

 さて,農業を取りまく環境は,4年続きの豊作であった米の生産も昨年の900万トンのやや不作になり政府買入れ量も在庫との兼合いで30万トンでしたが,減反面積は昨年同様となりました。農政全般の改革について「食料農業農村基本問題調査会」で検討されておりました答申が昨年秋取りまとめられ,本年には新たな農業基本法が制定され農業経営の法人化,食料自給率,中山間地域等への支援,環境保全等21世紀に向っての我が国農業の具体的な政策が示されるでしょう。

 農業労働力の高齢化と後継者不足,消費者ニーズの高度化,環境問題等様々な課題に対応するため化学肥料のニーズも多様化してきております。こうしたニーズに応えるべく当社はこれまで製品開発に努力してきており,環境にやさしい肥効調節型肥料であります被覆肥料「LPコート®」,「ロング®」,緩効性肥料「CDU®」をはじめ,泡状化成肥料「あさひポーラス®」,園芸培土「与作®」,打ち込み肥料「グリーンパイル®」等の製品を上市し各々高い評価をいただいております。今後も農業政策の展開方向に即した研究開発に取りくみ皆様方のご要望に答えるべく努力してゆく所存でございます。

 本誌「農業と科学」は本年発刊30周年を迎えます。これまで各方面の方々の研究成果や新しい技術の紹介を掲載させていただき皆様方に情報提供させてきておりますが,いささかなりともお役に立てればと願っております。長年ご愛読いただいておりますことに厚くお礼申し上げます。

 今後も更に創意工夫をこらし誌面の充実に努力してまいりますので,本年もご愛読いただきますようお願い申し上げ新年のご挨拶とさせていただきます。

 

 

植木類の挿し木繁殖における培地および肥料の影響

千葉県農業試験場 花植木荷隣室
研究員 柴田 忠裕

1.はじめに

 植木業界は公共緑化の低迷に端を発する構造的な不況に直面している。それに対応するためには,コストの低減を図ることと,少品目大量生産,或いは需要の変化にフレキシブルに対応できる多品目少量生産への二局化が考えられる。そして,少品目大量生産の場合,苗生産と商品生産の分業化が進行しつつあり,苗専業生産者が出現してきた。

 一方,苗を海外から導入し,毎年苗を輸入する生産者も見られるようになってきた。即ち,リレー栽培の台頭である。しかし,リレー栽培は生産品目の選択の自由度がかなり制限される。他者と差別化を図る上で,新導入樹種やオリジナルな品目をタイムリーに栽培するためには,個々に苗を生産する必要がある。いずれの場合も,とにかく良い苗を作ることが先決である。ここでは,高品質な苗生産を行うための挿し木技術,特に挿し木培地の肥料添加および培地の種類が生育に及ぼす影響について紹介する。

2.挿し床の条件

 園芸関係の教科書を紐解くと,「挿し床は肥料分が無い清潔な土が適している」旨の記載がなされている。

 例えば,森下義郎・大山浪雄著「さし木の理論と実際」(地球出版)から若干引用すると,挿し床材料は排水・通気がよく,清潔で病原菌が活動しにくい鹿沼土,赤土,砂,パーライト,バーミキュライト,ピートモス,水苔等が適し,腐敗の起こりやすい肥えた土は避けなければならない。挿し床は堆肥を混入し,成果をあげた報告もあるが,一般には腐敗を助長し活着が低下するため避ける必要がある。(中略)挿し穂は発根のために多くの養分を消耗していることもあり,発根後肥料分の少ない挿し床では充分な生育が期待できない。従って,発根後の薄い液肥の施用は効果的である。しかし,硫安その他速効性の化学肥料の元肥施用は,薬害を起こしやすいため避けなければならない。

 以上,要約すると病原菌の密度が低く,且つ病原菌が繁殖し難い清潔な培地が適していること,発根後は肥料分が適量ある方がその後の生育が良いが,(試験当時は緩行性の肥料がなかったため)速効的な化学肥料より液肥の方が安全であると述べている。

 現在は肥効期間が調節可能なコーティング肥料が開発され,かつ育苗用により細かい粒径のものも開発されている。従って,発根期に肥効が現れる元肥施用が可能となり,挿し床準備の段階で混入できるため省力化も期待できる。

 そこで,実際挿し床にコーティング肥料を混入し,挿し木の発根および地上部の生育を調査したので報告する。

3.挿し床における肥料混入効果の検討

(1)試験方法

 千葉農試ミスト室内で試験を行った。ミスト室は地上部温度が5℃以上で換気し,ベンチは温床線により20℃を維持した。ミストは30分間隔で4秒間噴射した。挿し木培地はピートモス,バーミキュライト,パーライト等量混合とした。

 そして,第1表に示した組成のマイクロロングトータル201-100日タイプを挿し木培地1リットル当たり0(無施肥),2,4g混入し,試験区とした。

 128穴のセノレトレイを用い,1997年11月12日に挿し木を行った。供試樹種はモントレーイトスギ’ゴールドクレスト’ Cupressus macrocarpa ’Goldcrest’,ヌマヒノキ’バリエガータ’ Chamaecyparis thyoides ’Variegata’,レイランドヒノキ’キャッスルウエラン’ Cupressocyparis leylandii ’Castlewellan’で,8~10cmの当年枝を挿し穂とした。1区当たり32本挿し木した。病害虫防除等は慣行に従って行った。挿し木から約半年後の1998年5月10日に発根率,根重,地上部長および地上部重を調査した。

(2)試験結果

 第2表に示したように,モントレーイトスギ’ゴールドクレスト’およびレイランドヒノキの発根率は,無施肥区が最も低く施肥区で高かった。施肥量による差は小さかった。両種とも無施用区でカルス化する傾向が認められた。ヌマヒノキ’バリエガータ’の発根率は各区で大きな差は見られなかった。

 根重は各樹種とも無施肥区に比べ施肥区で多かった。また,地上部長,地上部重ともに,無施肥区が最小,混入量が多いほど大きくなった。

 葉色は無施肥区が最も薄く,混入量が多いほど濃くなった。

 各樹種ともにマイクロロングトータル100タイプを左から0,2,4g混入

(3)考察

 挿し木培地への肥料混入は,発根率・発根量共に高める効果が見られ,効果的な技術であると判断された。

 モントレーイトスギ’ゴールドクレスト’やレイランドヒノキ’キャッスルウエラン’は従来の方法ではカルス化し易い傾向が見られたが,肥料混入により発根率が高まった。これは,肥料を求めて新根が形成され伸長したものと考えられた。

 以上のことから,挿し木培地への肥料混入は,挿し木の発根,地上部の生育に効果的であること,混入量は試験で供試したマイクロロングトータル-201では,挿し木培地1リットル当たり2~4g程度が適量であることが判明した。

4.挿し床材料の検討

(1)試験方法

 千葉農試ミスト室内で試験を行った。ミスト室は地上部温度が5℃以上で換気し,ベンチは温床線により20℃を維持した。ミストは30分間隔で4秒間噴射した。培地は市販の代表的な3種,即ち,メトロミックス350,スーパーネデル,与作新果菜用をそれぞれ単独で用いた。

 128穴のセルトレイを用い,1997年11月12日に挿し木を行った。供試樹種はモントレーイトスギ’ゴールドクレスト’ Cupressus macrocarpa ’Goldcrest’,ヌマヒノキ’バリエガータ’ Chamaecyparis thyoides ’Variegata’,レイランドヒノキ’キャッスルウエラン’ Cupressocyparis leylandii ’Castlewellan’で,8~10cmの当年枝を挿し穂とした。1区当たり32本挿した。病害虫防除等は慣行に従って行った。挿し木約半年後の1998年5月10日に発根率,根重,地上部長および地上部重を調査した。

(2)試験結果

 第3表に示したように,ECはメトロミックスが1.44ms/cmと最も高く,以下与作1.12,スーパーネデル1.02の順であった。pHはメトロミックスと与作が6.3であったが,スーパーネデルは5.45と最も低かった。

 発根率は3樹種とも培地による差は小さかった。根重,地上部長,地上部重は,メトロミックスが最も小さく,スーパーネデル,与作の順に大きくおった。

 葉色はメトロミックス,スーパーネデル,与作の順に濃くなった。

 観察による根の形態は,メトロミックスは細根の発生が少なく,長い根がセルトレイの底穴から1~3本程度伸びだした。従って,トレイから株を引き抜く場合,引き抜き難い傾向が見られた。一方,スーパーネデル,与作は短く細かい根が多数発生し,うち5~6本程度がトレイの底から伸びだした。また,トレイからの株の引き抜きは容易であった。

(3)考察

 各培地とも発根率は高く,実用上問題がないと思われた。しかし,EC値から判断して各培地ともかなり元肥が入っていると思われたが,スーパーネデル,与作に比べメトロミックスで根重や地上部重が劣り,葉色が薄かった。スーパーネデル,与作とメトロミックスの間には肥料の保持力に差があるものと推察された。即ち,メトロミックスは根が発生する時期に肥料分が流乏し,スーパーネデル,与作は長期にわたり肥料分が保持されていたと考えられた。

 なお,挿し木培地はセルトレイの場合,使用量が少なく,経費もそれほどかからないこと,病原菌や雑草種子の混入が少ない等の理由から,市販品を使う価値は高いと思われた。

 

 

ケイ素の生物学-1-

京都大学名誉教授
高橋 英一

はじめに

シリカと私

 Guy B. Alexanderという人の書いた”SILICA AND ME:The Career of an Industrial Chemist”「シリカと私-工業化学者の履歴」という本があります。ウィスコンシン大学で学位をとって間もないアレキサンダーが,一九四七年に講師をしていたユタ大学からクリーブランドのデュポンの研究所に移り,そこではじめてコロイド状シリカの研究に取り組むようになった数年間の出来事を生活記録風に綴った化学研究物語です。

 私はこの本を二十数年前に翻訳1)で読みましたが,著者のアレキサンダーに大変親しみを覚えました。それは実験室での著者の思考錯誤や一喜一憂の様が肌に伝わってくる上に,畑違いながら私もシリカに関する研究をしていたからです。

 アレキサンダーの仕事は,当時デュポンが開発した「リュドックス」という商品名のシリカコロイド製品の種類を広げるための基礎研究でしたが,私の場合は,戦後暫くして肥料としてイネに施用されはじめたケイ酸塩の効果について,植物栄養学的な立場から研究をすることでした。そしてそれは,一九五六年に私が農林省の農業技術研究所から,京都大学の農学部へ移って間もない頃でした。

 それまでの農技研での主な仕事は,丁度私の入所後にはじまった施肥改善事業のための水田の土壌調査でした。イネとは関係があるとはいえ,対象は専ら土であったので,植物主体の仕事を始めるのにはいささか不安がありました。それでアレキサンダーがボスのラルフ・アイラ一博士からコロイド状シリカについて研究するようにいわれたときの戸惑いの気持ちが,何となく分かるような気がしました。

 こうして私のシリカとのつきあいが始まりました。そしてそれは,途中とぎれながらも今日まで続いています。

 当初私は,イネを中心に実験を行っていました。しかしよりよい理解をするには「シリカの大地」に根ざす植物全体を対象にした方がよいのではないかと考え,いろいろな植物を供試するようになりました。

 さらにその後関心は,陸上植物から水圏の植物である藻類特にケイ藻や,動物全般とケイ素の関わりへと広がってゆきました。もっともこれらについては文献を調べるだけにとどまらざるを得ませんでしたが,農学の分野では得られない多くの知見に巡り会いました。

 このようなことをしている中に,自然界に普遍的に存在するケイ素はどのように生物の世界に組み込まれてきたのだろうか,またいろいろな分野に散らばっている知見を「ケイ素の生物学」として総合できないだろうかと思うようになったわけです。

ケイ素の生物学の現在

 ケイ素は半導体の素材などとして今やハイテク産業の花形になっていますが,ケイ素の生物学的研究の現状はどうなのか手短に紹介しておきたいと思います。

 19世紀中ごろには自然界に存在する元素の大半が発見され,分析法も進歩してきました。そのため土や植物体の元素組成が調べられるようになり,それらをもとに,土なしで植物を育てるための水耕液の組成が検討されました。植物の無機栄養生理の本格的な研究はこれからはじまります。

 当時ケイ素は土や植物の恒常成分であり,イネやトクサなどいくつかの植物には多量に含まれていることも知られていました。しかし試験をしても生育への効果が明瞭には認められないことが多く,結局水耕液の成分としては加えられませんでした。ただこのころ用いられていた水耕液には,不純物としてかなりのケイ素が存在していた可能性があります。

 ところが今世紀になって水耕栽培の精度の向上がきっかけとなって,微量必須元素の研究が始まると,ケイ素は再び取り上げられ,イネ科など特定の植物の生育には効果のあることが認められるようになりました。しかしながら必須元素の基準を満たすには至らず,現在も水耕液の組成にケイ素は入っていません。

 一方微量必須元素の探求が一段落した今世紀後半になって,有用元素というカテゴリーが登場しました。これは必須ではないが,ある種の植物の生育を促進したり,ある種の環境条件下で生育に必要となる元素のことです。

 必須元素が植物栄養における普遍性を代表しているのに対して,有用元素は特殊性,すなわち環境への適応の結果形成された植物の個性を反映しています。有用元素という視点の導入は植物栄養学の地平を広げる役割を果たすことになりましたが,ケイ素はこの有用元素の代表的な存在です。

 有用元素としてのケイ素への関心は,これまで日本は別として欧米では一般に低かったのですが,最近変化が起こりつつあります。

 たとえば一九九四年に植物栄養学界の長老のエプスタインは,アメリカ科学アカデミーの会誌2)に,これまでのケイ素ぬきの水耕液で行われた試験結果には妥当でないものがあり得る(とくに環境ストレスが存在している場合)として,ケイ素は常に水耕液の組成に加えておくべきであると主張しています。

 またドイツのマルシュナーは,一九九五年発行の大著「高等植物のミネラル栄養」3)に,ケイ素の生理作用について10頁近くも割いています。このようなことはそれまでの欧米のテキストには見られませんでした。

 さらに1997年のAdvances in Agronomyには,世界における持続可能な米生産のためにはケイ素地力の維持管理が必要であるとする,アメリカのダトノフらの50頁に及ぶ大論文4)(引用文献234篇,その三分の一以上を日本が占めている)が掲載されました。これなどすっかりわが国のお株を奪った感があります。

 一方ケイ素の必須性が認められている生物もあります。その代表がケイ藻です。ケイ藻は水界の生産者として大きな地位を占めているので,詳しく調べられています。ケイ藻は種によって特徴のある見事な紋様のシリカの殻に包まれていますが,シリカの代謝についても詳細な研究があり,ケイ素はケイ藻の必須元素であることが確定しています(たとえば1977年に刊行のウェルナーの編著による「ケイ藻の生物学」5))。

 シリカを骨格物質にしている生物はケイ藻のほかにもいろいろあります。原生動物や海綿動物には,骨格物質にシリカを使うものと炭酸カルシウムを使うものの二系統のあることが知られており,生物進化との関係で興味が持たれています。

 また脊椎動物の骨形成(硬骨化)には,ケイ素が微量必須元素的な役割をしていることが1970年代に証明され,現在動物の必須元素の表にはケイ素が加えられています(これらに関しては1981年刊行のシンプソンおよびヴォルカーニ編著「生物の系統におけるケイ酸質組織とケイ素の役割」6)が詳しい)。

 さらにバクテリア,菌類,植物,動物,つまり生物全般とケイ素との関係についての文献を網羅したものに,ロシアのヴォロンコフらによる「ケイ素と生命」と題する著書があります(1975年に独訳が刊行)7)。これには1973年までの文献5000余りが紹介されています。

 その後冒頭で触れたアイラーも,1979年刊行の「シリカの化学」8)の中で”生物学におけるシリカ”という一章を設け,70頁を費やして詳しく述べています。

 また1986年には,Ciba Foundationによって「ケイ素の生化学」9)が出版されました。これはケイ素の生理作用と医療への応用について1985年に行われた学際的なシンポジウムの講演と討論の議事録です。

 このように見てきますと,ケイ素は生物界と深く関わっていることが分かります。自然界に普遍的かつ多量に存在する元素としてそれは当然のことかも知れません。ここでは,生物が進化の過程でケイ素とどのように関わってきたか私なりに整理し,その中でイネやムギなどの「ケイ酸作物」がどのように位置づけられるか考えてみたいと思います。

参考文献

1)G. Alexander 著,井上勝也訳:シリカと私,東京化学同人(1971)

2)E. Epstein:The Anomaly of silicon in plant biology, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,vol. 91,11-17(1994)

3)H. Marschner:Mineral Nutrition of Higher Plants 2nd ed. 417-425 Academic Press(1995)

4)N. K. Savant, G. H. Snyder and L. E. Datnoff :Silicon Management and Sustainable Rice Production, Adovances in Agronomy,vol. 58,151-199(1997)

5)D. Werner edited:The Biology of Diatoms,110-149,Blackwell Scientific Pubs.(1977)

6)T. L. Simpson & B. E. Volcani:Silicon and Siliceous Structures in Biological Systems,Springer-Verlage pp.587(1981)

7)M. G. Voronkov, G. J. Zelchan, E. Lukevitz:Silizium und Leben, Akademic-Verlage pp.370(1975)

8)Ralph, K . Iler:”Silica in Biology” in The Chemistry of Silica p.730-802,A Wiley-Interscience Publication(1979)

9)Ciba Foundation Symposium 121:Silicon Biochemistry, John Wiley & Sons pp.264(1986)

 

 

セルトレイ全量施肥によるキャベツ栽培
-キャベツは一発施肥で-

鹿児島県農業試験場大隅支場 土壌改良研究室
室長 上村 幸廣

はじめに

 近年,購入育苗培養土を利用し,セルトレイで育苗を行う事例が増えてきている。従来,野菜類は直播きのものと育苗して移動するものに分かれていたが,キャベツ,ハクサイ等については,直播きが主流であった。これは根巻きの問題等が大きな要因であった。しかし,スピンアウト等の資材が開発され,これらの作物も容易にセルトレイで育苗できるようになってきた。

 もともと直播きできるものをセルトレイで育苗を行う理由は色々あるが,機械植え付けによる省力化が前提になる大規模の畑作経営では,セルトレイによる小苗を多量に作ることが必要不可欠である。

 一方,セルトレイによる育苗で,省力化の一環として育苗時に本ぽまでの施肥が可能になると,かなりの省肥,低コスト化が図れるばかりでなく,農家の育苗時及び本ぽでの施肥の失敗も少なくなる。

 そこで,育苗培養土に本ぽまでの肥料を加えたセル成型苗を利用した新栽培技術を紹介する。

1.育苗培養土に肥効調節型窒素肥料を施肥

 この技術の特徴は育苗培養土に本ぽまでの窒素肥料を施肥し,不足する窒素と他の成分は牛ふん堆肥から供給する新しいシステムである。

 したがって,ここでは牛ふん堆肥から窒素成分で10アール当たり10kgを投入する。それに伴い,リン酸が約12kg,カリウムが約25kg投入されたことになる。

 化学肥料室素を4割減肥して,残りの6割を有機物から賄う方法で,近年の有機主体の栽培,環境保全型農業にも資する考え方で行った栽培技術である。

2.試験方法

(1)土壌条件 厚層多腐植質黒ボク土(久米川統)
(2)試験規模 1区50㎡
(3)供試作物 キャベツ(金系201)
(4)耕種概要
○播種      1997年9月22日,128穴セルトレイ育苗,2粒播き
○育苗培養土   与作N-150
○牛ふん堆肥施用 9月30日
○植え付け    10月13日
○収穫      1998年1月13日
○栽植密度    4.76株m-2(35cm×60cm)
(5)試験区の構成

3.結果の概要

 培養土へ窒素肥料を多量に添加することは苗の発芽率,育苗期間中の生育に影響することは十分懸念される。しかし,この試験では,LPS-100,LPSS-100を供試することによって,これらのことを回避しようとし,実際キャベツの発芽率には影響しなかった。

 しかし,約1か月の育苗期間中にこれらの供試肥料からの窒素溶出が多く,植え付け時に肥効調節型肥料を施肥した苗は対照区に比べ,若干濃度障害を受け,草丈が低かったが,植え付け後1週間でこれらの傾向は逆転した(図1)。これは植え付け後新しい根が急速に伸びたことと圃場に持ち込むことで窒素濃度が薄まったためと考えられる。つまり,キャベツが新しい土壌環境に適応したと推察される。

 一方,植え付け時の培養土中の養分状況をみてみると,無機態のアンモニア態窒素,硝酸態窒素含量が対照区の培養土に比べ高くなっている(図2)。これらの肥料溶出の現象が少なくなると,より一発施肥が農家にとって,容易になるものと考えられる。

 肥効調節型肥料を施肥した植え付け時の苗の全窒素含有率は対照区を大きく上回ったが,カリウム含有率については,逆の傾向がうかがえた(図3)。また,リン酸は施肥していないが,肥効調節型肥料を施肥した苗が含有率は高くなった。

 さて,収量であるが,結球重は区間差を認めず,4割減肥しても,キャベツに対しては十分であった。また,LPS-100とLPSS-100の違いは収量にはほとんど影響しなかったが,最も収量の多かったのはLPSS-100 4割減肥区であった(図4)。

 球高,球径も肥効調節型肥料を施肥した区が長くなる傾向で,球自体も大きくなる傾向であった(図5)。

 一般的に有機物及び肥効調節型肥料等で栽培された作物は柔くなる傾向がうかがえる。これは養分供給が持続的に行われるためと考えられる。ここでも,このような傾向がうかがえ,肥効調節型肥料を供試した区の結球の乾物率は低くなり,キャベツが柔くなる現象がうかがえた(表3)。

 一方,収穫時の結球の養分含有率をみると,全窒素含有率は肥効調節型肥料を供試した区が低い傾向であったが,硝酸態窒素含有率は逆に高まることがうかがえた(図6)。しかし,これらの現象も大きな差ではなかった。

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 肥効調節型肥料を施用した区の収穫時の全窒素吸収量は2割及び4割減肥したにも関わらず,対照区とほとんど差異はなかった(図7)。一方,リン酸,カリウム吸収量は逆に低まる傾向である。

4.まとめ

 播種時の培養土に本ぽまでの窒素肥料を施肥したが,発芽率には影響しなかった。また,苗の養分的形質は対照苗とかなり異なったが,収穫時にはこれらの影響はうかがえなかった。

 結球重は区間差がほとんどなく,むしろ肥効調節型肥料を供試した区が若干増収したこと等から,4割減肥区でも,キャベツに対しては十分であった。また,LPS-100とLPSS-100の差異は生育面,収量面でうかがえなかったが,より溶出の遅いLPSS-100が適当であると考えられる。